いきなりOpenFOAM (13)

サイクロン集塵機のシミュレーション

サイクロン集塵機

 今回はサイクロン集塵機のシミュレーションを行ってみます。
 サイクロン集塵機の設計では、集塵したい粉塵の密度と粒子径から図1に示す標準型サイクロン集塵機の寸法を決定します。一方、サイクロン集塵機の圧力損失は、集塵系の送風機の能力とエネルギーコストに大きく影響しますが、設計段階では簡単に予測できません。そこで、今回は、集塵諸元に基づいて、サイクロン集塵機を設計し、OpenFOAMを用いて圧力損失を求めてみます。なお、集塵機内の粒子挙動については、今回の解析では行いません。

図1 標準型サイクロン

 集塵機設計において基本となる緒元は処理できる風量と分離できる粉塵の最小径です。分離できる粉塵の最小径は限界粒子径と呼ばれています。今回は、表1に示す限界粒子径が10μmで処理風量が120 m3/minの集塵機を設計してみます。
表1 集塵機設計諸元

 サイクロン集塵機では、限界粒子径dminは近似式として、下記のロジンの式で表されます。

 ここで、μは気体粘度[Pa・s]、ρPは粒子密度[kg/m3]、ρは気体密度[kg/m3]、bは入り口幅[m]、uは入り口流速[m/s]です。
 サイクロン集塵機の個々の寸法を決定するには、図1の標準型サイクロンを利用すると便利です。標準型サイクロンでは、サイクロン径をDとすると、入り口幅b=D/5、入り口高さh=D/2となるため、流量をQ[m3/min]とすると、入り口流速はu=Q/(6×D2)となります。(1)式の両辺を二乗して、bとuに以上の関係を入れると、(2)式が得られます。
(2)式からサイクロン径Dを求めると、(3)式となります。

 表1の集塵機設計緒元を(3)式に入れると、サイクロン径Dは約1.3mとなり、設計緒元を満たすサイクロン集塵機は直径1.3m、高さ3.9mとなることがわかります。

FreeCADによる解析モデル作成

 次に、サイクロン径1.3mを基に標準型サイクロンの各部寸法を計算し、FreeCADでサイクロンのモデルを作成します。
 モデリングの方法は各種ありますが、今回は、円筒と立方体とを組合せた図2に示す上部パーツと、円錐と円筒とを組み合わせた図3に示す下部パーツとを組合せます。

図2 上部パーツ
図3 下部パーツ

 最後に、図4に示すように面要素に分割し、流入口、流出口、サイクロン内壁に相当する面をstlファイルとして出力します。

図4 面要素に分割
XSimでの条件設定

 次に、ブラウザを起動し、XSimのサイトに接続します。プロジェクト名を入力し、先ほどstlファイルをドラッグドロップで読込ませます。FreeCADでのモデリングは㎜単位で行っていたため、モデルをm単位にスケールダウンさせます(図5)。「次へ」をクリックし、メッシュ設定を行います。

図5 形状のインポートとスケール変更

 体積メッシュ設定はデフォルトのままです(図6)。

図6 体積メッシュ設定

 サイクロン中心の円筒部分を詳細に解析するために、再分割領域を設定します。図7に示すように、Z軸状に半径0.4m、高さ1.7mの円柱領域を設定し、再分割レベルを2にします。

図7 再分割領域の設定

 続けて、表面レイヤーの設定を行います。図8に示すように、サイクロン内壁に相当する領域を選択し、レイヤー層数を2にします。「次へ」をクリックし、基本設定を行います。

図8 表面レイヤーメッシュの設定

 基本設定から初期条件はこれまでと同様、適当な終了サイクルを設定し(図9)、物性設定で、物性をAirにします(図10)。初期条件で、流速を(0,0,0)に設定します(図11)。

図9 基本設定
図10 物性設定
図11 初期条件設定

 次に、境界条件を設定します。領域として、「流入口」を選択し、「流速設定」で(-11.8343,0,0)とします。符号はX軸のマイナス方向という意味になり、11.8343は諸元の風量(120㎥/min)と入口面積(高さD/2, 幅D/5)から求めた風速(m/s)になります。ほかに「流出口」を選択し、「自然流入出」を設定、「サイクロン内壁」を選択し、「静止壁」を設定します。

図12 境界条件設定

 計算設定で、パソコンのコア数に合わせた並列数を設定します(図13)。続けて、出力設定では、適当な出力間隔を設定します(図14)。最後に、OpenFOAMのバージョンに合わせたフォーマットを選択し、「エクスポート」をクリックして、解析ファイルを出力します。

図13 計算設定
図14 出力設定
図15 解析ファイルの出力
OpenFOAMでの計算

 XSimでエクスポートしたzip形式の解析ファイルを右クリック→展開として、ファイルを展開します。展開したフォルダ内で、マウス右クリック→端末を開くを選択し、ターミナルを起動します。Allrunファイルに実行権限を与えます。次いで、./Allrunと入力すると、メッシュ分割と計算が自動で行われます。
 OpenFOAMでの計算手順はこれまでと同じですが、ファイル操作などの詳細が知りたい場合は、いきなりOpenFOAMの第2回、第8回を参照してください。

ParaViewでの結果の可視化

 計算が完了し、ターミナルが入力待ちとなったら、paraFoamと入力し、ParaViewを起動します。解析結果が読み込まれた状態で起動するので、propertiesのApply(緑色のアイコン)をクリックすると、解析結果が表示されます。Wireframeを選択すると、図16に示すように、吐出し側の円筒部分のメッシュが細分化されていることがわかります。

図16 メッシュ図

 図17は流線を流速コンター表示したものです。図を見ると、流入口からの流れは、サイクロン内壁に沿って、大きな流速で旋回し、この際に、遠心力により、粉塵と空気とが分離されることがわかります。

図17 流線を流速コンターで色分け

 図18は同じく、流線を静圧コンター表示したものです。図から入り口付近の静圧は320Paあり、設計したサイクロンを動作させるには320Pa以上の圧力が必要であることがわかります。

図18 流線を静圧コンターで色分け

 これで今回のサイクロン集塵機のシミュレーションは終了です。今のところXSimでは粒子追跡の設定ができないため、今回は、粉塵の分離の確認はできませんでしたが、OpenFOAMのソルバーには粒子追跡機能があるため、解析ファイルを修正することで対応が可能です。
 今回、各アプリケーションの操作説明は省略しています。FreeCADの具体的な操作については、いきなりOpenFOAM第5回および第7回、OpenFOAMでの計算実行は第8回、ParaViewの操作については第3回、第4回および第8回を参考にしてみてください。

 次回は電子機器内部の流れを解析してみます。

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