いきなりOpenFOAM (17)

翼周りの流れと揚力・抗力係数の算出(後編)

XSimでの条件設定

 前編では、モデル作成まで終了したので、計算のための条件設定から開始します。なお、図の番号は前編からの通し番号にしています。
 ブラウザを起動し、XSimに接続します。プロジェクト名を入力し、「作成」をクリックします。
 形状のインポートで、「ファイルドロップ」を選択し、前編で作成した4つのSTLファイルを「ここにファイルをドロップ」と記載された箇所にドラッグドロップすると、図15に示すように、モデルが読込まれます。次に、形状の編集を選択し、拡大縮小率は「㎜→m」、拡大縮小中心は「原点」を選択して、「適用」をクリックすると、モデルのスケールが変更されます。右側のウィンドウではモデルが一時的に見えなくなりますが、赤い○で囲まれたアイコンをクリックすると、ウィンドウサイズに合わせて再表示されます。

図15 形状のインポートとスケールの変更

 「次へ」をクリックして、メッシュ設定に移ります。体積メッシュ設定はデフォルトのままで、再分割設定として、図16に示すように、範囲タイプは「円柱」を選択し、上面・下面の中心をz軸とし、再分割レベルを2にして、「適用」をクリックします。次に、レイヤーメッシュ設定を行います。領域は「blade」を選択し、「設定」をクリックすると、翼表面に再分割されたメッシュが設定されます。

図16 翼周りに円筒状の再分割領域を設定

 基本設定では、図17に示すように、適当な終了サイクルを入力します。次に、物性値を設定します。物性名はデフォルトではWaterとなっているので、赤い○で囲まれたアイコンをクリックして、Airを選択します(図18)。

図17 基本設定
図18 物性設定

 初期条件を設定します。デフォルトのままでもかまいませんが、入り口流速は5m/sなので、収束しやすいように図19に示すように初期条件は速度を(5,0,0)に設定します。

図19 初期条件設定

 続いて、図20に示すように、境界条件を設定します。領域はinlet、タイプは流速指定、速度に(5,0,0)と入力し、「設定」をクリックし、流入側境界条件を設定します。同様にして、領域はoutlet、タイプは自然流入出とし、「設定」をクリックし、流出側境界条件を設定します。続けて、領域はblade、タイプは静止壁とし、「設定」をクリックし、翼表面境界条件を設定します。

図20 境界条件設定

 計算設定では並列数を入力します(図21)。出力の設定では、出力サイクルに適当な間隔を設定します。

図21 計算設定

 続いて、図22に示すように、領域タブを選択し、領域はblade、タイプは力係数を選択します。X軸方向に流れているため、抗力方向は(1,0,0)、揚力はこれと直交する方向であるため、揚力方向は(0,1,0)、代表速度は流入速度の5、代表長さは翼弦長の0.15、代表面積は翼幅と翼弦長との積、0.01*0.15=0.0015を入力し、「設定」をクリックします。これで、OpenFOAMは揚力係数と抗力係数を解析結果として出力します。

図22 揚力・抗力係数の出力設定

 次に、図23に示すように、出力書式を設定します。XSimはOpenFOAMのバージョン4と7に対応した書式で出力できます。インストールしたOpenFOAMのバージョン(今回はバージョン7)を選択してください。
 「エクスポート」をクリックすると、解析に必要なファイル一式が圧縮されて、zipファイルとして、ダウンロードできます。ダウンロードした解析ファイルを右クリック→展開を選択して、解凍すると、OpenFOAMの解析に必要なファイル一式が得られます。XSimの操作はこれで完了です。

図23 解析用ファイルを出力
OpenFOAMでの計算

 XSimでエクスポートしたzip形式の解析ファイルを右クリック→展開として、ファイルを展開します。展開したフォルダ内で、マウス右クリック→端末を開くを選択し、ターミナルを起動します。Allrunファイルに実行権限を与えます。次いで、./Allrunと入力すると、メッシュ分割と計算が自動で行われます。
 OpenFOAMでの計算手順はこれまでと同じですが、ファイル操作などの詳細が知りたい場合は、いきなりOpenFOAMの第2回、第8回を参照してください。

ParaViewでの結果の可視化

 計算が完了し、ターミナルが入力待ちとなったら、paraFoamと入力し、ParaViewを起動します。
 赤い○で囲まれた箇所でWireframeを選択すると、図24に示すようにメッシュを表示します。青い○で囲まれたアイコンをクリックし、スライスを作成します。次に、表示をuにすると、図25に示す流速分布が、同じく表示をpにすると、図26に示す静圧分布が表示されます。

図24 メッシュ図
図25 流速分布
図26 静圧分布

 次に、揚力係数と抗力係数を見てみます。解析結果のpostProcessingフォルダ内のforceCoeefs.datをエディタで開くと、図27に示す各サイクルでの揚力係数と抗力係数を確認できます。最終行のCd列が求めようとしている抗力係数、また、Cl列が同じく揚力係数です。

図27 揚力係数と抗力係数

 ここまでが、ある1つのケースの計算手順になります。同様の手順で、FreeCADモデルで翼型の傾きを変えて、それぞれの結果を求めると、図28に示す迎角による揚力係数と抗力係数の変化をとらえることができます。図を見ると、迎角が10度付近で、揚力係数と抗力係数との比(揚抗比)が最大となることがわかります。

図28 迎角による揚力係数(Cl)と抗力係数(Cd)の変化

 迎角が0度、15度、30度での流速分布、静圧分布を図29から図34に示します。迎角が0度では、翼上面の流速がわずかに大きく、そのため、翼上面の静圧が低下し、翼が水平状態でも揚力を発生することがわかります。一方、翼前後での静圧はほぼ同じであり、圧力差による翼への抵抗は小さいことがわかります。
 一方、迎角が15度では、翼上面に低速の領域が広がり、流れはすでに翼表面から剥離していることがわかります。剥離域も含めた翼上面の流速は迎角0度のそれよりも大きく、翼上面の静圧は大きく低下し、揚力が増加していることがわかります。同時に低速の領域は翼後方にも広がるため、翼前後での圧力差は迎角0度のそれよりも大きくなるため、抗力も増加しています。
 迎角が30度では、剥離はさらに大きくなり、負圧域は翼上面から翼後方に移動し、大きく広がっていることがわかります。この状態が失速と呼ばれる状態です。

図29 迎角0度での流速分布
図30 迎角0度での静圧分布
図31 迎角15度での流速分布
図32 迎角15度での静圧分布
図33 迎角30度での流速分布
図34 迎角30度での静圧分布

 これで翼周りの流れと揚力・抗力係数の算出(後編)は終了です。
 今回は助走区間を小さくした風洞モデルでの計算ですが、一般に言われているような揚力、抗力の変化が再現できることがわかります。OpenFOAMに限ったことではありませんが、最初から大規模なモデルで計算せずに、最初は小さなモデルで解析して問題点を把握しておくことが、CAEを効率よく利用するポイントになります。
 また、実務として今回のような計算を行う場合には、次のステップとして、物体前後の領域の大きさ、メッシュサイズ、メッシュレイヤーの厚みが乱流モデルの要求する無次元距離y+を満足しているか、計算は収束しているかなど、結果の確からしさを検証するプロセスが必要になります。

 次回はマグヌス効果をOpenFOAMで解析してみます。

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