いきなりOpenFOAM (19)

マグヌス効果の解析(CFD解析)

解析モデル

 前回(第18回)は、流れの中で回転する円柱周りの流線をポテンシャル流れ解析で求めてみました。今回はOpenFOAMで前回と同じ条件、すなわち、揚力係数が1となる条件で解析してみます。揚力係数は前回説明のように下記で表されます。

ここで、ρは流体の密度[kg/m3]、Uは流速[m/s]、Γは循環[m2/s]、Sは円柱の軸に平行な面への投影面積[m2]、Rは円柱半径[m]、ωは角速度[rad/s]です。(1)式から所定の揚力係数となる円柱の回転速度を求めると下記となります。なお、円柱長さは単位長さ1mとしています。

ここで、流速U=5m/s、円柱の半径R=50mmとすると、円柱の角速度ωは

となり、911.89deg/sの回転を与えれば良いことがわかります(XSimでは回転壁の条件はdeg/sで与えます)。

XSimでの形状作成と条件設定

 上記の条件を基に、XSimでモデルを作成していきます。今回は簡単な形状の組み合わせであるため、XSimだけでモデルを作成してみます。
 XSimを起動し、形状のインポートで「形状の追加」タブを選択します。図1に示すように、直方体と多角柱を追加します。直方体は幅0.6m、長さ1.3m、高さ0.01mとし、原点を幅中央で長さ方向に0.3m後方にします。次に、多角柱を選択し、角の数を充分に多くすると円柱形状となります。外接円半径を0.05mとし、中心を原点に設定します。メートル単位で形状を追加しているため、スケールの変更は必要ありません。
 なお今回のモデルで流入口は、左側のツリー表示で「形状のインポート」下のXMin、流出口はXMax、円筒側面はSideです。

図1 直方体と円柱の作成および配置

 メッシュ設定では、図2に示すように、円柱を囲むように再分割領域を設けます。また、図3に示すように、円柱側面に境界層(レイヤーメッシュ)を設けます。その他についてはデフォルト設定のままです。

図2 円柱周りに再分割領域を設定
図3 円柱表面に境界層(レイヤーメッシュ)を設定

 基本設定では、図4に示すように、適当な解析サイクル(例では500になっています)を設定し、定常、標準k-εモデルを選択します。
 境界条件設定では、図5に示すように、流入口(XMin)に流速指定でX方向に5m/s、流出口(XMax)に自然流入出、円柱側面(Side)に回転壁を選択し、回転速度として、先ほど計算した911.89°/sを入力します。回転向きは回転軸方向に右ねじです。例えば、回転軸方向がz=-1の場合、z軸負方向に右ねじが回りながら進むので、は時計回りの回転となります。

図4 基本設定
図5 境界条件設定

 出力設定では、図6に示すように、揚力係数を出力させます。揚力係数の出力についての詳しい説明は、いきなりOpenFOAMの第17回を参考にしてください。

図6 揚力係数を出力

 その他の項目は、これまでと同様の手順にて作成し、エクスポートで解析ファイルを出力し、XSimでの作業は終了です。

OpenFOAMでの計算

 XSimでエクスポートしたzip形式の解析ファイルを右クリック→展開として、ファイルを展開します。展開したフォルダ内で、マウス右クリック→端末を開くを選択し、ターミナルを起動します。Allrunファイルに実行権限を与えます。次いで、./Allrunと入力すると、メッシュ分割と計算が自動で行われます。
 OpenFOAMでの計算手順はこれまでと同じですが、ファイル操作などの詳細が知りたい場合は、いきなりOpenFOAMの第2回、第8回を参照してください。

ParaViewでの結果の可視化

 計算が完了し、ターミナルが入力待ちとなったら、paraFoamと入力し、ParaViewを起動します。解析結果が読み込まれた状態で起動するので、propertiesのApply(緑色のアイコン)をクリックすると、解析結果が表示されます。
 図7は円柱を上から見た状態で流線を表示させたものです。流線の表示については、いきなりOpenFOAMの第4回を参考にしてください。

図7 流線表示

 揚力係数の計算結果は、解析結果のpostProcessingフォルダ内のforceCoeefs.datに書き込まれています。表計算ソフトで開いて、最終行を見たものが図8です。この表でC列が抗力係数Cd、D列が揚力係数Clで、揚力係数Clは0.466と、モデル設計時の目標値(Cl=1)よりも小さな値となっています。これは、ポテンシャル流れ解析では循環と称して、円柱近傍の流体に直接、回転を与えているのに対して、実験あるいはCFD解析では、回転する円柱に引きずられる形で円柱近傍の流れに作用するため、円柱近傍の流れの回転は円柱の回転速度よりも小さな値となるためです。また、ポテンシャル流れ解析は理想流体を前提としているため、抗力を求めることはできません。

図8 抗力係数、揚力係数の計算結果

 図9は、ポテンシャル流れ解析による流線とOpenFOAMによる解析結果から得られた流線とを比較したものです。図を見ると、流線全体の様子はポテンシャル流れ、OpenFOAMの解析結果ともによく似ていますが、OpenFOAMによる解析結果では、円柱後方に渦が発生している点がポテンシャル流れ解析による結果と大きく異なります。このように、ポテンシャル流れ解析は物体近傍では実際の現象とは異なるものの、全体を効率よく俯瞰できるため、製品の概略設計や解析モデルの設計の際に、役立ちます。CFDの発展により、必ずしも専門の方ではなくとも、結果が得られるようになりましたが、より良い結果を得るためには、流体力学の基礎的な知識が重要となることがお分かりいただけたかと思います。

図9 ポテンシャル流(左)とCFD解析(右)の流線比較

 2回に渡りマグヌス効果をポテンシャル流およびOpenFOAMで計算してきました。今回の回転する円柱周りの流れに座標変換を行うことで、翼周りの流れも求めることができます。次回から2回に分けて、ジューコフスキー翼周りの流れをポテンシャル流れ解析とOpenFOAMによるCFD解析で求めてみます。

 今回、各アプリケーションの操作説明は省略しています。FreeCADの具体的な操作については、いきなりOpenFOAM第5回および第7回、OpenFOAMでの計算実行は第8回、ParaViewの操作については第3回、第4回および第8回を参考にしてみてください。

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