いきなりOpenFOAM (31)

煙突からの汚染物質拡散解析

解析モデル

 今回は、煙突からの汚染物質の広がりをOpenFOAMで解析してみます。煙突は直径10m、高さ100mとします。実際の煙突では送風圧力や浮力により高方向への流速成分がありますが、今回は単純化して、煙突上部から気流に乗って汚染物質が広がるものとします。解析空間は幅100m、高さ500mとし、煙突上流側に100m、下流側に900mの長さとします。XSimでサイズ変更を行わなければ、CADでmm単位のものをm単位で扱えるため、図1に示すようにモデルを作成します。一般的にstlデータは単位を持ちませんが、CADソフトによっては出力時に変換されるものもあるので、お使いのCADで確認をお願いします。

図1 解析モデル

 解析空間の上流をinlet1、煙突上部をinlet2、解析空間の下流をoutletとして、stlファイルを出力します。その他の面はwallとして、解析を容易にするために、すべり壁にします。すべり壁での速度勾配はないため、層流モデルを用います。

XSimでの設定

 図2に示すように、モデルをインポートし、サイズ変更なしで登録すると、図に示すように長さ1kmのモデルとなります。

 汚染物質は流入側の河岸に沿って下流に流れると予想されるため、再分割領域は図3に示すように、汚染物質の流入側に適当な幅でモデル長さ分の大きさで設定します。

図2 モデルのインポート

 汚染物質は煙突上部から下流に水平に広がると予想されます。また、煙突をメッシュで再現するにはある程度の細分化が必要となります。そこで、再分割領域は図3に示すように、煙突周囲に高さ150mの直方体を設定します。すべり壁のため、レイヤーメッシュの設定は不要です。

図3 再分割領域の設定

 図4に示すように境界条件を設定します。風速は1m/sとし、汚染物質の流入は自然流出入とします。基本設定では乱流のチェックを外し、物性はAirを選択します。その他の設定方法については、いきなりOpenFOAM第7回第12回を参考にしてください。

図4 境界条件の設定
OpenFOAMでの計算

 XSimでエクスポートしたzip形式の解析ファイルを右クリック→展開として、ファイルを展開します。展開したフォルダ内で、マウス右クリック→端末を開くを選択し、ターミナルを起動します。Allrunファイルに実行権限を与えます。次いで、./Allrunと入力すると、メッシュ分割と計算が自動で行われます。
 OpenFOAMでの計算手順はこれまでと同じですが、ファイル操作などの詳細については、いきなりOpenFOAM第2回第8回を参照してください。

 図5は煙突上部からの流線を表示したものです。煙突上部を通過する流れに乗って、汚染物質が下流に拡散すると予想されます。

図5 煙突上部からの流線
拡散解析の準備と実行

 次に、拡散解析を行います。拡散解析用フォルダ内の0フォルダ内のUファイルを流れ解析の最終サイクルの結果で上書きします。Tファイルのinlet1はvalueが0、inlet2はvalueが1とします。constantフォルダ内のpolyMeshフォルダを流れ解析のpolyMeshフォルダで上書きします。
 transportPropertiesファイルの拡散係数を1e-5に設定します。拡散係数は空気中で10-5程度、水中で10-9程度です。
 Sytemフォルダ内のcontrolDictファイルで終了時間、時間刻み、出力タイミングを設定します。
 Systemフォルダ内のcontrolDictファイルで、終了時間、時間刻み、出力タイミングを設定します。流速1m/sで1km先の下流まで到達するには1000秒必要となるため、終了時間は1000秒とします。メッシュの寸法が大きくなるため、時間刻みは0.1秒と大きくしても、クーラン条件を満足します。
 ファイルの修正が終わったら、scalarTransportFoamを実行して拡散計算を行います。ファイル修正や計算実行の詳細は、いきなりOpenFOAM第27回第28回を参照してください。

ParaViewでの結果の可視化

 図6に縦断面での汚染物質の濃度分布を示します。汚染物質は煙突高さで水平に下流に直線的に広がっていることがわかります。濃度1%と10%の等値面を表示させた結果が図7です。図中、赤色で表示された濃度10%の等値面は下流に向かって、領域が狭まることがわかります。一方、半透明の白色で示す濃度1%の等値面は下流側でも領域は変わらないことがわかります。

図6 汚染物質の濃度分布
図7 拡散物質濃度10%と1%の等値面

 今回は、河川の汚染物質拡散の計算を行いました。実務上は屋外風のプロファイルや地形、乱流なども考慮する必要があります。また場合によっては汚染物質の比重や浮力などの考慮も必要です。
 次回は室内の換気効率について拡散物質濃度を利用して解析してみます。

 このページでは、各アプリケーションの操作説明は省略しています。FreeCADの具体的な操作については、いきなりOpenFOAM第5回および第7回、OpenFOAMでの計算実行は第8回、ParaViewの操作については第3回第4回および第8回を参考にしてみてください。

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