いきなりOpenFOAM (67)

スロッシング現象(その5)

仕切り板ありのインパルス応答

 前回のインパルス応答波形から、いきなりOpenFOAM第63回で説明した手法で、振幅倍率の周波数特性を求めてみます。いきなりOpenFOAM第63回では、インパルス応答波形のうち40秒から60秒間のデータを用いて、周波数特性を求めましたが、前回のいきなりOpenFOAM第66回の応答波形で仕切り板なし、水平に仕切り板、中央に仕切り板の応答波形で共通している個所として、10秒から20秒間のデータを用いて応答波形を求めてみます。詳細はいきなりOpenFOAM第63回を参照してください。
 図1は、インパルス応答波形から求めた振幅倍率の周波数特性です。図の青色の曲線は仕切り板なしの、橙色の曲線は水平に仕切り板を設けた場合の、また灰色の曲線は中央に縦に仕切り板を設けた場合の周波数特性を示します。図を見ると、水平に仕切り板を設けると、共振時の振幅倍率は大きく低下することがわかります。また、共振周波数も低下しているのは、減衰率の違いが影響しているためです。固有周波数と共振周波数とは混同して扱われることがありますが、もともと定義が異なり、固有周波数をωnとすると、共振周波数はωn×√(1-ζ2)となります。したがって、減衰率ζが大きいと共振周波数と固有周波数との差は顕著となります。通常は、減衰率ζはそれほど大きくはないため、固有周波数と共振周波数とは等しいものとして扱う場合があります。また、中央に仕切り板を設けた場合は、共振周波数の増加が見られます。これは、タンクが2つのセルに分割されたためです。直方体や円筒形状の液体の共振周波数を解析的に予測することも可能で、タンクの設計などでは共振周波数を求めることが重要となります。

図1 振幅倍率の周波数特性

 いきなりOpenFOAM第59回では、1Hzで震度5強相当の加振を行いましたが、仕切り板の効果を周波数特性から検討してみます。図2は1Hz付近での違いがわかるように、図1の縦軸を拡大したものです。図を見ると、側壁に仕切り板を設けると液面の揺動は抑えられることがわかります。一方、縦に仕切り板を設けた場合は、逆に液面の揺動は増加すると予想されます。

図2 振幅倍率の周波数特性(1Hz付近を拡大)
ファイル修正と計算実行

 いきなりOpenFOAM第59回の解析ファイルを用いて、仕切り板を設けた場合の解析を行ってみます。いきなりOpenFOAM第66回で作成したpolymeshフォルダを第59回の解析フォルダに上書きします。また、解析結果ファイルやalpha.waterファイルはあらかじめ削除しておきます。
 端末からsetFields、interFoamの順にコマンドを入力すると計算が始まります。

結果の可視化

 図3から図5は液面の揺動を動画にしたもので、それぞれ図3が仕切り板ない場合の、図4が側壁に水平に仕切り板を設けた場合の、また、図5が中央に仕切り板を設けた場合です。
 図の動画を再生させると、図4の液面揺動は図3のそれに比べて小さいことがわかります。ただし、図2に示す周波数特性で予想されるほど液面揺動は小さくなっていません。これは、図3および図4の液面揺動を見るとあきらかなように三角関数で近似できるようなものではなく、非線形の振動となっているためと考えられます。また、図5に示す中央に仕切り板を設けた場合の液面揺動は、図3に示す液面揺動よりも大きくなっていて、図2の周波数特性からも予測されています。
 このように、本来、線形性を前提条件とするインパルス応答では、非線形の振動現象を精確に予測することは難しいのですが、共振周波数や振幅が大きくなるか小さくなるかといった定性的な予測は可能であることがわかります。なお、今回の例は、OpenFOAMの例題として説明したものです。スロッシングに関する解析や設計手法が規格化されている場合は、その方法に従ってください。

図3 液面の揺動(仕切り板なし)
図4 壁面の揺動(側壁に水平仕切り板を設置したタイプ)
図5 壁面の揺動(中央に垂直仕切り板を設置したタイプ)

 これまで10回に渡りスロッシング現象について説明してきました。
 次回からは、送風機のような回転による流れを解析してみます。初回は、OpenFOAMにおける回転系の扱いについて説明します。

 このページでは、各アプリケーションの操作説明は省略しています。FreeCADの具体的な操作については、いきなりOpenFOAM第5回および第7回、OpenFOAMでの計算実行は第8回、ParaViewの操作については第3回第4回および第8回を参考にしてみてください。

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