いきなりOpenFOAM (68)
OpenFOAMにおける回転系の扱い
移動格子とMRF
回転系が扱えれば、ドローンのプロペラや送風機や風車といったターボ機械の内部流れの解析が可能となります。今回から、ターボ機械の内部流れなどの回転系の解析について説明します。
いきなりOpenFOAM第57回の「回転する撹拌槽内の液体」で説明したように、メッシュ移動機能を用いれば、回転系の計算ができます。しかしながら、送風機では、いきなりOpenFOAM第57回の回転撹拌槽とは異なり、回転する動翼と静止しているフレームの2つの異なるメッシュを連結する必要があります。これは、移動格子と呼ばれる手法で、メッシュが時間経過とともに移動するため、非定常計算が前提となります。
一方、移動格子と比べて扱いやすい手法として、回転する領域で座標系を回転させることで、メッシュを静止させたままで回転系の計算を行う手法があります。これはMRF(Multiple Reference Frame)と呼ばれています。メッシュは移動しないため、定常計算が可能です。
両者の特徴を比較した表を下記に示します。
移動格子 | MRF |
---|---|
移動するメッシュと静止したメッシュが必要 | 静止したメッシュのみ |
非定常計算のみ対応 | 定常計算、非定常計算いずれにも対応 |
動翼と静翼とのすれ違いを再現できる | 動翼と静翼とはあらかじめ設定した位置で固定 |
長時間の計算が必要 | 比較的短時間の計算でも可能 |
XSimでの設定 回転領域設定→回転タイプ→移動格子 | XSimでの設定 回転領域設定→回転タイプ→MRF |
移動格子では、移動するメッシュと静止したメッシュが必要となり、例えば、動翼と静翼とがすれ違う状態での流れといった解析が可能です。一方、MRFでは回転領域と静止領域はありますが、メッシュ自体は移動しないため、動翼と静翼とはあらかじめ設定した位置で固定されます。そのため、動翼と静翼との位置関係による影響を見るには、動翼と静翼とが異なる位置のモデルを複数製作し、それぞれでメッシュを生成して計算するといったことが必要となります。
計算負荷自体は移動格子とMRFとで大きな差はありませんが、移動格子では非定常計算が前提となるのに対して、MRFでは定常計算も可能であり、ここで、必要な計算時間に大きな差が生じます。例えば、回転するプロペラを計算する場合、非定常計算では計算結果が安定するまでに、プロペラが数回回転するまでの計算が必要となります。非定常計算では、クーラン条件を考慮する必要があり、メッシュサイズに応じて、時間刻みを短くする必要があります。仮に時間刻みが1e-5秒とすると、毎秒1回転のプロペラが1回転するだけでも、10万回の計算(サイクル)が必要となります。一方、定常計算では、厳密な解ではないものの、数百サイクルでも、それなりの結果が得られる場合があります。
XSimでの設定
解析ファイルの準備は、XSimを用いる場合、移動格子、MRFともに操作にほとんど違いはありません。
移動格子では、基本設定で、「非定常」と「回転」を選択後、回転領域で、回転タイプとして「移動格子」を選択します。
一方、MRFでは、基本設定で、「回転」を選択後、回転領域で、回転タイプとして「MRF」を選択します。
今回はOpenFOAMの回転系の扱いについて簡単に説明しました。今後12回にわたり、回転系の事例を紹介します。なお本コラムでは、比較的短時間で結果が得られるMRF/定常計算を用いた解析を主に説明します。
次回は、XSimのMRF機能を用いた例題を解析してみます。
このページでは、各アプリケーションの操作説明は省略しています。FreeCADの具体的な操作については、いきなりOpenFOAM第5回および第7回、OpenFOAMでの計算実行は第8回、ParaViewの操作については第3回、第4回および第8回を参考にしてみてください。
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