いきなりOpenFOAM (80)
ドローンのプロペラ周りの流れ(その5)
翼断面形状が異なるプロペラの準備と計算
今回は、翼断面形状を変更してOpenFOAMでの解析を行い、翼断面形状が推進力とトルクに及ぼす影響を調べてみます。翼中心線が円弧となるようにして翼断面を作成し、その他は平板翼と同じ諸元で翼を作成します。図1は、今回解析に用いる平板翼のプロペラと円弧翼のプロペラを示します。前回同様、プロペラ形状のみが異なる計算ため、XSimではプロペラ形状のstlファイルのスケール変更のみを行い、エクスポートされた解析ファイルから、スケール変更されたプロペラ形状のstlファイルを取り出して利用することにします。設定方法や計算方法については、いきなりOpenFOAM第79回を参照してください。
推進力とトルクの計算結果
計算結果から求められた推進力とトルクとを表1に示します。表1から、円弧翼は平板翼に対して、推進力が36%ほど増加することがわかります。トルクも増加しますが、16%と増加の割合は少なく、結果として、円弧翼は平板翼に対して効率が良くなることがわかります。一般にターボ機器には比例則が成り立ち、圧力は回転速度の二乗に比例します。推進力とトルクとは圧力に比例するため、結果として推進力は回転速度の二乗に比例します。また、軸動力はトルクと角速度との積であるため、軸動力は回転速度の三乗に比例します。以上のことから、円弧翼では回転速度が5152r/mで平板翼と同等の推力が得られ、軸動力は26%減少します。
vバッテリー容量が同じ場合、活動限界時間は軸動力に反比例するため、円弧翼の活動限界時間は35%ほど長くなります。このように、翼断面形状がドローンの活動時間に及ぼす影響は大きく、より効率の良いプロペラ形状が必要とされます。
推進力[N] | トルク[Nm] | 回転速度[r/m] | 軸動力[W] | |
平板翼 | 4.21 | 0.19 | 6000 | 119 |
円弧翼 | 5.71 | 0.22 | 6000 | 138 |
円弧翼(速度変更) | 4.21 | 0.16 | 5152 | 88 |
翼周りの静圧分布
翼断面形状により推進力が異なる理由を、ParaViewによる可視化結果から探ってみます。
図2と図3はプロペラ平均径での静圧分布でそれぞれ、図2は平板翼、図3は円弧翼での分布を示します。赤く表示された正の圧力領域から青く表示された負の圧力領域に向かって力が加わり、この内、縦方向の力成分が推進力となり、横方向の力成分がトルクとなります。したがって、推進力を大きく、トルクを小さくするには、正の圧力領域と負の圧力領域とは翼を挟んで、上下に同じ位置に同じような大きさで広がると効率が良くなると予想できます。
図2の平板翼での静圧分布を見ると、翼先端背面側に強い負の圧力領域がある一方、図3の円弧翼では、負の圧力領域は翼背面全体に広がっています。このことが推進力の違いとなっていると考えられます。
今回はプロペラの断面形状が異なる解析を行い、推進力やトルクの違いと、その原因を静圧分布の比較から考察しました。
さて、ドローンは離陸時に大きな推進力が得られます。これは地面効果として知られています。
次回は、地面を考慮した解析モデルで、地面効果を再現してみます。
このページでは、各アプリケーションの操作説明は省略しています。FreeCADの具体的な操作については、いきなりOpenFOAM第5回および第7回、OpenFOAMでの計算実行は第8回、ParaViewの操作については第3回、第4回および第8回を参考にしてみてください。
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