いきなりOpenFOAM (85)

竹とんぼの飛行解析(その4)

円弧翼モデルと流体解析

 今回は、翼断面形状を円弧翼にして飛行解析を行ってみます。翼長、翼弦長、翼厚み、傾き角は平板翼と同じで、断面形状を図1に示すように円弧にした竹とんぼを作成します。

図1 円弧翼竹とんぼの形状

 竹とんぼの位置や大きさ、外側の境界や解析条件は、平板翼での解析と同じであるため、竹とんぼの形状のみ差し替えて、解析を行ってみます。
 始めに、図1の竹とんぼをblade.stlとして出力します。次に、XSimサイトに接続し、blade.stlのインポートとスケールの変更を行います。エクスポートで解析ファイルを出力し、展開したフォルダのconstantフォルダ内triSurfaceフォルダにあるblade.stlを、平板翼での解析ファイル内の同じ個所に上書き保存します。これで、円弧翼での解析ファイルができあがります。操作の詳細は、いきなりOpenFOAM第83回を参照してください。

 端末から./Allrun –mでメッシュ生成、simpleFoamで計算を行います。流体抵抗に関しても同様に、polymeshフォルダの差し替えと計算を行い、推進力の係数、負荷トルクの係数、流体抵抗係数を求めます。詳細は、いきなりOpenFOAM第83回を参照してください。質量と慣性モーメントはCADのプロパティから求めます。

各係数と飛行高度の比較

 表1に、平板翼と円弧翼でのそれぞれの係数を示します。翼長、翼弦長や翼厚みは、平板翼と円弧翼とも同じ値であるため、質量と慣性モーメントは、ほぼ同じ値となります。傾き角も平板翼と円弧翼とで同じであるため、流体抵抗係数も、ほぼ同じ値となります。
 一方、推進力の係数が円弧翼では平板翼の1.8倍と大きくなっているため、初期回転速度が同じであれば、円弧翼のほうが、より高く飛行すると考えられます。ただし、負荷トルクの係数が平板翼に対して30%ほど増加しているため、回転速度が低下するのは円弧翼のほうが早いと考えられます。

平板翼円弧翼
質量[kg]7.69×10-37.78×10-3
慣性モーメント[kgm2]26.15×10-626.46×10-6
推進力の係数[N/(rad/s)2]4.18×10-67.55×10-6
負荷トルクの係数[Nm/(rad/s)2]0.17×10-60.22×10-6
流体抵抗の係数[N/(m/s)2]4.87×10-34.55×10-3
表1 平板翼と円弧翼の比較

 いきなりOpenFOAM第83回の運動方程式の数値解法コードの係数を、今回の結果で書き換えて計算を行うと、図2に示すように、円弧翼竹とんぼにおける高度の時間変化が得られ、最高高度は5.3mと求まります。平板翼での最高高度は3.2mでしたので、円弧翼にすることで、約1.7倍高く飛ぶことがわかります。

図2 円弧翼竹とんぼの高度の時間変化

 なお、いきなりOpenFOAM第83回の数値解法コードに下記を追加すると、height.csvとして高度の時間変化をcsvファイルとして取り出せます。csvの書式は1列目が時間、2列目が回転速度[m/min]、3列目が高度[m]となります。

w=sol[:,2]*60/2/numpy.pi
data=numpy.array([t,w,h]).T
numpy.savetxt('height.csv',data,delimiter=',',fmt='%.6f')

 csvファイルでそれぞれのデータを取り出して比較すると、図3のようになります。図で青色の線が平板翼の、オレンジ色の線が円弧翼の高度を表します。
 図を見ると、最高高度に到達する時間は、円弧翼の方が遅いことがわかります。表1から円弧翼の回転速度の低下速度は平板翼よりも大きくなりますが、推進力が大きいため、平板翼と比べて、円弧翼の上昇速度が大きくなり、結果として最高高度への到達までの時間が長くなるためと考えられます。

図3 平板翼と円弧翼の飛行高度比較
流体解析結果からの考察

 平板翼と円弧翼とで、推進力に違いがある理由を流体解析の可視化結果から見てみます。図4と図5は、平均径での断面静圧分布で、それぞれ、図4が平板翼、図5が円弧翼での結果です。
 翼背面側(上側)の静圧に低い領域を見ると、図5に示す円弧翼のほうが、均一に広く分布していることがわかります。また、翼腹面側(下側)の静圧の高い領域についても、円弧翼のほうが、均一にかつ圧力値も高いことがわかります。
 このことから、円弧翼では圧力差により生じる図の下から上への力、すなわち推進力が平板翼と比較して大きく増加したことがわかります。

図4 平板翼の断面静圧分布
図5 円弧翼の断面静圧分布

 今回の解析では、上昇・下降の運動、回転速度の低下に伴う迎角の変化や、流体抵抗への竹とんぼの回転の影響は考慮していません。OpenFOAMの機能としてはオーバーセットメッシュ(重合格子)や非定常計算を用いることで、竹とんぼの姿勢も含め運動そのものを再現することが可能です。ただし、その計算を行うには、相応の計算時間やハードウェアリソースを必要とするため、今回一連の説明には含みませんでした。
 次回からは風車の解析を行っていきます。

 このページでは、各アプリケーションの操作説明は省略しています。FreeCADの具体的な操作については、いきなりOpenFOAM第5回および第7回、OpenFOAMでの計算実行は第8回、ParaViewの操作については第3回第4回および第8回を参考にしてみてください。

おことわり
 本コンテンツの動作や表示はお使いのバージョンにより異なる場合があります。
 本コンテンツの動作ならびに設定項目等に関する個別の情報提供およびサポートはできかねますので、あらかじめご了承ください。
 本コンテンツは動作および結果の保証をするものではありません。ご利用に際してはご自身の判断でお使いいただきますよう、お願いいたします。