扇風機を利用した換気促進方法

 新型コロナウイルスやインフルエンザなど、ウイルスによる感染拡大を予防する方法として、換気が推奨されています。前回は学校教室を対象として、どのような窓開け方法が有効なのかを検証しましたが、今回は住宅のリビングを対象に1か所しか窓が開けられない場合に、扇風機を利用して換気を促進する方法を、コンピュータシミュレーションを使って検証します。
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24時間(常時)換気システムの目的

 換気という言葉を聞いて、「うちは換気システム付いていますよ」という方も多いと思います。家具や建材から発生するガスによるシックハウス症候群を予防するために、改正建築基準法が施行された2003年7月以降、住宅の居室では換気回数*が0.5回以上の機械換気設備(24時間換気システム等)の設置が義務付けられました。
 一方、前回の教室換気で触れましたが、空気中を浮遊する粉塵を除去するためには、数回から十数回の換気回数が必要とされているため、24時間換気システムのみではウイルスに対して十分ではなく、窓開けによるこまめな換気が必要と言えます。
 なお、一般的な家庭用エアコンは室内の空気を循環させているだけなので、外の空気と入れ換わる換気にはなりません。
*換気回数:1時間あたりの換気量/部屋の容積

モデル住戸および条件

 今回は、集合住宅の約15畳のリビングダイニング(一部キッチンを含む)を対象として、窓は奥行き2mのバルコニーに面する、幅1.9m、高さ1.95mの引き違い窓としました。なお開放されているのは半分の95cm幅になります。その他の条件は表1のとおりです。

表1 計算条件一覧

室内発熱200W(大人2名+家電機器)
屋外風および外気温度無風、22℃
扇風機の位置窓から30cm室内側
扇風機の高さ80cm または 40cm
扇風機の羽根径30cm
扇風機の風速3m/s(中~強運転) または
1m/s(微~弱運転)
扇風機の運転状況首振りなし、水平吹出し
計算モデル
扇風機の設置と設定パターン

 扇風機なしと扇風機の向きや設置高さなどの組み合わせ4種類の計5パターンを検証しました。各ケースの設定は表2のとおりです。

表2 扇風機の設置と設定パターン

ケース名送風の方向高さ風速
ケース0扇風機なし扇風機なし扇風機なし
ケース1室内高(80cm)強(3m/s)
ケース2屋外高(80cm)強(3m/s)
ケース3室内低(40cm)強(3m/s)
ケース4室内低(40cm)弱(1m/s)
扇風機の効果

 換気の評価は前回と同様、空気齢という指標を用い比較しました。空気齢は各部分の空気がどれだけの時間 [秒] 室内に滞留しているかを示すもので、数値が大きいほど滞留時間が長い=換気が悪い、という指標になります。
 まずは、「そもそも扇風機で換気が促進されるのか?」という根本的な検証結果です。ケース0は単に窓を開けただけ、一方ケース1は開いている窓の前に扇風機を置いた場合です。

 室内全体の空気齢平均値で比較すると47.5倍もの差が生じる衝撃的な結果になりました。この結果から扇風機を利用することで換気を大幅に促進させることができると言えます。ちなみにケース0の空気齢113,146 [秒]は31時間半ですので、無風時に1か所の窓を開けただけでは、ほとんど換気ができないことを意味します。

換気のメカニズム

 1か所だけ窓を開けた場合、どのようにして換気が行われるのかを確認しましょう。一般的に冷暖房を行っていない室内は、人体や家電製品からの発熱などで屋外より温度が高くなります。ファンなどの動力を利用せずに換気する(自然換気といいます)場合は、この温度差が空気を入れ換える駆動力になります。
 下図は扇風機を設置しないケース0の窓部分の空気の流れを矢印で表したものです。このように窓を1か所だけ開けた場合には、室内の温められた空気が窓の上部から出てゆき、冷たい外気が下部から入ってくることで換気されます。ただ、よほど室内が暑くない限り風速は非常に遅く、これがなかなか換気されない原因でもあります。つまり、このゆっくりした流れを扇風機で速めることで、換気を促進させようという取り組みになります。

換気扇の向きで効果は変わるのか?

 結果を見る前に扇風機やファン、人の息などを想像してみてください。吹出し側は強く風を感じ、遠くまで風を送ることができますが、吸込み側はあまり風を感じることができません。もちろん、吹出しも吸込みも同じ量なのですが、吹出す場合は狭い範囲に空気が集中し、吸込む場合は周辺の広い範囲から空気が流れ込んでくるため、結果的に吹出し側の風速が速くなり、遠くまで届く流れになります。
 このように、扇風機も向きによって特性が変わるため、室内側に吹くケース1と屋外側に吹くケース2を比較してみました。

 椅子やソファーに座った時の顔の高さに相当する床上1mと室内全体の空気齢の平均値は、2~3%の違いと、扇風機の向きによって大きな違いは無いようです。ただし、室内の最大値は扇風機を室内に向けたほうが良い値となっています。扇風機を通過する空気がどこから来て、どこへ行くかを線で表示した下図を見ると、扇風機を室内に向けた場合は、奥まった部分まで風が到達しているのに対し、扇風機を屋外に向けた場合は、そこまで影響が及んでいないことが分かります。結果的に奥まった部分の空気齢の違いが室内の最大値の差に表れています。部屋の隅々まで換気を促進させるためには、扇風機を室内に向けるのが良いですが、扇風機の風で物が飛んでしまうなどの問題があるようでしたら、屋外に向けてもほぼ同様の効果が得られると考えていいでしょう。

扇風機の高さによる違い

 元々窓の換気メカニズムが窓上部から外に出て行き、下部から外気が入ってくるものなので、それをさらに促進するためには、低い位置で室内に向けて扇風機を設置するほうが有利なのではないかと考えました。一般的な扇風機は高さが80cm前後ですが、高さが調節できるものや、和室用などの扇風機には高さが40cm程度のものもあります。そこで、通常の高さであるケース1と高さの低いケース3を比較してみました。

 劇的な違いは無いものの、低い位置に設置したほうが、室内の平均値で7~8%換気が促進され、室内の最大値では12%ほど促進の効果が表れました。扇風機の位置で空気齢の分布を見てみると、高い位置のケース1では、外に向かう空気齢が大きい空気を少し巻き込んでしまっているように見えます。一方、低い位置のケース3では、新鮮な空気を示す濃い緑の部分が奥まった部分にまで到達していることが分かります。

扇風機の風速による違い

 さて、ここまでで、扇風機は低い位置に、そして室内に向けることで良い結果を得られました。今回は換気を促進するためということで、扇風機の強運転を想定した風速3m/sで計算してきましたが、強運転では扇風機近くにある紙や軽いものは飛ばされてしまいます。そこで、微風または弱運転を想定した風速1m/sではどうなるかを検証してみました。扇風機の高さは低い位置、向きは室内側で風速以外は共通の条件です。

 強運転がケース3、弱運転がケース4の空気齢の結果です。これからはっきりと風速が遅くなると換気の効果が極端に小さくなるということが分かります。空気齢の平均値は2.6倍から2.7倍悪くなり、最大値は4倍近い値になります。これはたまたまかもしれませんが、風速を1/3にしたら、空気齢(淀んでいる時間)が約3倍になりました。
 室内の分布を見ても、外気を室内に送り込むことはできているものの、風が弱いために部屋の奥まで届かず、結果的に部屋の空気が滞留してしまっています。

まとめ

 今回の検討から得られたものは下記の通りです。 

 扇風機を窓の前で動かすことで1か所の窓でも換気を促進することができる

 扇風機の向きや高さはそれぞれ少しの違いはあるが影響は大きくない
 
 扇風機の風速(強弱設定)は影響が大きく、速い風速を選ぶと効果が高い

 扇風機という身近なものを利用して、普段はあまり換気がされない部屋でも換気を促進する方法を検証してみました。今回は扇風機でしたが、冬場に活躍するサーキュレーターなどでも同様の効果が得られると思います。
 春、秋の中間期は窓を開けて換気ができる季節ですので、積極的に窓を開け、できれば2方向の窓開け、1か所の場合は扇風機などを利用して、今回の結果なども参考にしていただき、十分な換気をしてください。

続編:「夏場の換気は短時間で済ませたい」はこちら

おことわり
 今回の検討はある一定の条件下でのシミュレーション結果になります。異なる条件では違った結果や傾向になる場合があります。また、このシミュレーション結果は実現象の再現を保証するものではありません