ワクチン製造用動物細胞培養攪拌槽の解析事例
新型コロナウイルスが猛威を振るう中、ワクチン開発のみならず、ワクチンを大量かつ安価に提供する必要があります。ワクチン製造の1つに培養攪拌槽を用いる方法がありますが、小型のテストモデルではうまく製造できていたものが、実生産用の大型機ではうまく培養できなくなったという話は珍しくありません。
今回は、その培養攪拌槽を設計する上での様々な現象を、熱流体解析でどのように扱うのかを紹介したいと思います。
また、バイオサイエンスのアプローチを取り入れるため、いくつかの解析モデルを用います
●ガスの溶解・析出
通気による酸素や二酸化炭素の溶解・析出はヘンリーの法則に従うものと仮定します。ヘンリーの法則および数式についてはここでは割愛します。(詳しくは文末の詳細資料PDFをご覧ください)
●細胞の生化学反応モデル
細胞の生化学反応は非常に複雑で、数値解析に実現象を再現することが困難です。またすべての細胞を計算で求めることは、計算能力的に不可能であるため、今回は現象を単純化し、細胞の形状や大きさの変化は一定(球体)として、細胞質を用いて細胞数を表現します。(詳しくは文末の詳細資料PDFをご覧ください)
●流れ解析
解析手法 | 液単相を対象に連続式、NS式、そして乱流モデルを用いて解析を行います。 |
計算コスト | 解析手法がシンプルで、定常解析ができ、短時間で解析結果が得られるメリットがあります。 |
得られる情報 | 全体的な流れ、せん断、乱れなどの情報が得られます。 |
応用方法 | 撹拌槽形状(縦横比、底面形状、邪魔板)・撹拌翼の設計に利用できます。 |
●除熱能力の確認
解析手法 | 上記の手法に更にエネルギー保存式を加えて温度の解析も行います。 但し、単純化のため、実際の細胞の生化学反応による発熱ではなく、一定の体積発熱を与えて解析します。 |
計算コスト | 解析手法がシンプルで、且つ、定常解析ができ、短時間で解析結果が得られるメリットがあります。 |
得られる情報 | 流れの情報に加えて、槽内の温度分布・除熱量が得られます。 |
応用方法 | 撹拌槽の冷却方法(水ジャケット・インナーチューブなど)設計に利用できます。 |
●通気状況の確認
解析手法 | 気液二相を考慮した解析手法となります。気相中のガス成分および液相中の溶存ガス成分も考慮し、ガスの溶解・析出モデルを取り入れます。 |
計算コスト | 非定常解析になりますので、計算時間は長くなります。 |
得られる情報 | 上記の流れ情報に加え、ガス、溶存酸素・溶存二酸化炭素の分散状況が得られ、酸素供給・二酸化炭素除去能力がわかります。 但し、実際の細胞の生化学反応による溶存ガスの変化は考慮できず、単純なガス溶解・析出現象となる点に注意が必要です。 |
応用方法 | ガスの供給方法(スパージャータイプや配置など)の設計に利用できます。 |
空気の界面 酸素濃度アニメーション 二酸化炭素濃度アニメーション
●細胞育成状況の確認
解析手法 | 幾つかの生化学モデルを考慮した手法となります。 |
計算コスト | 非定常解析になります。考慮する相・成分、モデルが更に多いため、計算時間がかかります。 |
得られる情報 | より実現象に近い、流れ場、温度分布(除熱能力)、通気状況がわかり、更に、培養液消費、排泄物の増加、細胞の成長、ワクチン生成量も確認することができます。 |
応用方法 | 培養撹拌槽の最終的性能確認・最適化に適します。 |
おことわり
今回の検討はある一定の条件下でのシミュレーション結果になります。異なる条件では違った結果や傾向になる場合があります。また、このシミュレーション結果は実現象の再現を保証するものではありません